実効性のない政策に「廃止基準」を導入するべき理由

「また、よく分からない予算がついたな…」
そう思ったことはありませんか?

たとえば、自治体が地域経済活性化のために発行してきた「プレミアム付き商品券」。 1,000円で1,200円分の買い物ができるといった制度は、一時的には嬉しいものかもしれません。

でも──そのあと、地域の経済は本当に潤ったのでしょうか?
困っていた人の暮らしは、少しでも楽になったのでしょうか?

こうした事業の多くは、その“結果”が検証されることなく、静かに終わり、また繰り返されていきます。

制度そのものが悪いとは限りません。
でも、「やって終わり」の政策に共通するのは、“終わらせ方が決まっていない”という構造です。

今回提案するのは、その構造に一石を投じるアイデア──
すべての政策に「廃止基準」を設けるという考え方です。

新たな制度や事業を開始する際には、次のような明確な条件をあらかじめ定めます:

  • KPI(成果指標)が2年連続で未達なら再審査
  • 国民の利用率が一定未満の場合は自動終了
  • 有識者評価で「実効性なし」と判断された場合は見直し

これは単に「失敗したら終わり」という話ではありません。
“成功しているなら継続、そうでないなら改善か撤退”という、民間では当たり前のPDCAを、政治にも導入しようという提案です。


「評価されない政策」は、存在しないのと同じ

現在、多くの政策が「成果を示さないまま何年も継続」されています。

それは、評価されないからです

評価されないものは改善されず、改善されないものは意味を持たず、最終的に税金だけが使われて終わる——
そんなサイクルを断ち切るためにも、「開始」と同時に「終了の条件」まで決めておくことが重要です。


廃止基準があれば、良い政策が選ばれる

制度に「廃止基準」が組み込まれていれば、こんなメリットがあります:

  • 無駄な予算配分を防げる
  • 制度を改善する意識が生まれる
  • 現場や市民の声が評価指標に反映されやすくなる
  • 結果として、本当に必要な政策が生き残る

どれくらいの予算が見直せるのか?

「本当にそんなに見直せるの?」という疑問に対して、実際の予算規模をもとに試算してみました。

年間1,000億円以上の予算規模がある主な政策群

政策名 年間予算規模(概算) 主な課題点
新しい地方経済・生活環境創生交付金 約2,000億円 成果指標が曖昧で、効果検証が不十分
科学技術振興費 約1.4兆円 成果の可視化が難しく、KPI設定が不明確
GX・半導体関連支援 約1.9兆円 投資効果の評価が困難で、透明性に課題
公共事業関係費 約6.1兆円 効果測定が難しく、優先順位の明確化が必要
地方交付税交付金等 約19兆円 配分基準の透明性や効果検証が求められる
社会保障関係費 約38.3兆円 持続可能性の観点からの見直しが必要
防衛関係費 約8.7兆円 効果の評価や費用対効果の検証が求められる

合計:およそ77.4兆円

→ その20%にあたる約15.5兆円が、見直しや再配分の対象となり得ます。

なぜ「20%」なのか?

行政評価や過去の事業仕分け等の実績では、不要・重複・非効率な支出はおおむね10〜30%程度存在するとされています。
その中間値である20%は、「制度の全否定ではなく、部分的に見直す」という現実的なラインです。

数字のための制度や、成果の出ていない一部を見直すことで、本当に必要なところに資源を再配分することが可能になります。

これは行政や政治家を責めるための制度ではありません。
責任を明確にしつつ、正当な評価と改善の文化を作るための提案です。


実装への第一歩:政策に「KPI+廃止条件」を必須化する

法制化の第一歩として、次のようなルール化が考えられます:

  1. 新規政策にはKPIと「廃止基準」を必須項目として明記
  2. 年次でKPIの進捗を公表し、第三者評価を義務化
  3. 基準を満たさない場合は「自動的に再審査プロセス」へ

このようにすれば、国民が成果を見て判断できる政治が実現できます。


まとめ:廃止基準は、未来の国づくりの必須条件

すべての制度には「終わり方」が必要です。
それは無責任ではなく、むしろ責任ある政策運営のかたちです。

制度の良し悪しを議論することも大切ですが、
「どのように判断し、見直していくか」という仕組みを持たなければ、改善も進化も生まれません。

すべての政策には、「はじまり」と「終わり」があっていい。
やってみてダメなら、やめる。
それは失敗ではなく、次につなぐ判断です。

廃止基準は、「正直であること」を政治に取り戻すための、小さな第一歩です。


この記事は「国づくりを進める13のアイデア」シリーズの第1回です。
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よくある質問と答え

Q1. 成果が出にくい分野(教育・福祉など)はどうなりますか?

A. 廃止基準は「短期成果が出ない=終了」ではありません。
例えば福祉政策であれば「生活満足度調査」「利用者の声」「中長期の定性評価」など、多面的なKPIを設計することで、継続が正当化されます。

Q2. 政治が数字だけに縛られて柔軟性を失いませんか?

A. 逆に、現状のように基準がないと「やめる理由が見つからない」状態になります。
廃止基準は“自動終了”ではなく“自動再審査”のきっかけに過ぎず、状況を見て判断する柔軟性は十分に残せます。

Q3. 現場の声はどう反映されますか?

A. 再審査のプロセスには、必ず現場の当事者や有識者のレビューを組み込みます。
数字と現実のギャップをすり合わせ、制度の改善につなげる設計を前提としています。

Q4. 「廃止ありき」で進めると保守的にならない?

A. むしろ逆です。失敗を恐れず挑戦するには、「失敗したら潔くやめられる」ルールが必要です。
チャレンジのためのセーフティネットとして廃止基準は機能します。

Q5. すでに存在している制度にはどう対応するの?

A. 廃止基準は新規制度だけでなく、既存制度にも段階的に適用していくことが可能です。
まずは予算規模が大きい政策や、長期間継続している制度から順にKPIと廃止基準を後付けで設定し、進捗を年次で可視化するステップが現実的です。

すべてを一斉に変える必要はなく、国民への影響が大きいものから優先的にレビューすることで、無理なく改善が進められます。

Q6. 単発の「ばらまき」政策にも廃止基準は必要?

A. 単発型でも「評価基準」を設けることが重要です。
一度きりの給付でも、その成果や効果(消費喚起・生活改善など)を事後に評価し、公表する仕組みがなければ、政策の有効性は検証できません。

たとえば:

  • 給付後の消費動向の変化(家計調査)
  • 低所得層への波及効果
  • 地域ごとの実施効果の比較

廃止基準が不要というより、「一回こっきりで終わるから評価しなくていい」ではダメという認識が必要です。
単発であっても、「このやり方は効果があった/なかった」という知見が次の政策の質を左右します。

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